2023年03月30日
リモートサービスを提供する先輩企業“タイムリープ株式会社”にインタビュー「リモート」が生み出す価値とは
人手不足や高齢化など労働環境は大きく変化していますが、働き方は変わらず“普通”のままなのでしょうか。人がリモート環境から業務を担う新しい働き方がこれからの社会にどんな価値をもたらすのか、リモートサービスを提供している先輩企業“タイムリープ株式会社”代表取締役の望月亮輔さんとともに考えてみました。
望月 亮輔|もちづき りょうすけ
タイムリープ株式会社 代表取締役
大学卒業後、大手通信会社とベンチャー企業を経て、1社目となるロボットに関するWEBメディア事業を行う会社を起業。その後事業売却をし、売却先の会社で取締役とメディアの編集長を務め、業界最大のWEBメディアへと成長させる。2019年6月に最も大切なことに時間を使える世の中の実現を目指し、遠隔接客サービス「RURA」を提供するタイムリープ株式会社を創業、代表取締役に就任。
柳澤 斐子|やなぎさわ ながこ
リモートロボティクス株式会社 マーケティングストラテジーマネージャー
新卒で川崎重工に入社し、5年間産業用ロボット事業部に所属。川崎重工卒業後約2年半IT企業でデジタルマーケティングプランナーを経験。2021年、リモートロボティクス立上げのため川崎重工に出戻り、主にマーケティング・セールス領域を担当。
接客をリモートで — タイムリープの提供するサービス
– 柳澤
まずはどういったリモートサービスを提供されているか教えてください。
– 望月
タイムリープのビジョンは、「最も大切なことに時間を使える世の中を実現する」。働くをやりがいや意志を持って働く「仕事」と、生活のために仕方がなく働く「労働」に分けたときに、後者の労働をテクノロジーに置き換えることにより、世界中の人が自分がやりたいことに時間を割ける社会を目指しています。
私たちが提供している「RURA」は、店頭に置かれたモニター越しに、リモートで接客を行える遠隔接客サービスです。少人数のスタッフで数多くの店舗の接客を行えることが特徴です。従業員の働き方は変わるけれど、接客を受けるお客様の体験は変わらないことをアピールポイントとしています。
サービス業全体では人手不足が顕著で、パーソル総合研究所が発表した「労働市場の未来推計 2030」では、2030年時点で400万人もの人手不足が発生するとみられています。その一方で、店舗によっては1時間そこに立っていても接客している時間は5〜10分ということがあります。そこで店舗という場所に縛られることなく、接客を行うことができればと考えました。
タイムリープが手がける遠隔接客・リモート接客サービス「RURA」
提供:タイムリープ株式会社
– 柳澤
リモートロボティクスの設立背景にも、やはり人手不足や高齢化があります。以前弊社のBLOG記事でも紹介したのですが、製造業・中小企業の人手不足は深刻です。実際に事業者の方々にお話をお聞きしても、今から10年は何とか耐えられても、その次の10年はどうかと不安を抱えていらっしゃる方が多くいらっしゃいます。製造業だけでなく、サービス業においても人手不足は深刻なんですね。
なぜ「自動」ではなく「リモート」なのか
– 柳澤
望月さんは以前、ロボット関連のWebメディアで編集長を務められ、ロボットに関する知見も多数お持ちかと思いますが、ロボットで接客を自動化する考えはなかったのでしょうか?
– 望月
家庭向けの人型ロボットの登場をきっかけに私はコミュニケーションロボットに大きな期待を感じ、ロボットに特化したメディア(現在のロボスタ)を立ち上げました。約5年ほど様々なロボットを見てきましたが、やはり、ロボットによる自動接客はまだまだ難しいと感じました。コミュニケーションロボットに初めて話しかけた人が、ロボットから的外れな回答が返ってきて、その後話しかけなくなる場面を多く見たからです。
2019年にタイムリープを立ち上げ、現在「RURA」を提供・運用している今の視点でも、AIより人間が接客をした方が接客を受けるお客様の体験はよくなると私は考えています。導入してくださった事業者様に対しては、単に省人化を実現するだけでなく、来店されるお客様に「RURA」を通じて質の高い接客体験を提供することによる売上の向上にも貢献できればと考えています。
– 柳澤
コミュニケーションロボットだけでなく、作業を行うロボットについても完全自動化が難しいケースが多くあるのが現状です。95%は自動化できるけれども、5%残ってしまう。この5%を突き詰めるためにシステム費用が高額化し、結局ロボット導入ができないというのもよく聞く話で、私たちはその5%を人がリモート環境から担うことができるのではないか、と考えています。
リモートに踏み出せた事業者に見る課題解決のポイント
– 柳澤
現在、事業検証を進める中で感じるのは、やはり「人のまま」か「ロボットで完全自動化」かの2択で考えられる方が圧倒的に多く、“人がリモート環境から業務を担う”「リモート」の考え方を受け入れて頂けないことがあります。タイムリープさんは「リモート」という考え方をどう広げていかれたのでしょうか?
– 望月
私たちも「RURA」をローンチした当初はそうでした。潮目が変わったと感じたのは、全国でインターネットカフェ「スペースクリエイト自遊空間」を展開するランシステムさんが28店舗で「RURA」を導入くださったことです。28店舗を3名で接客するという象徴的な事例ができたことによって遠隔で接客できる実感が世に広がったように思います。
– 柳澤
導入までのイメージをより鮮明に、感度高くお客さまに伝えられるようになると、サービスが広く受け入れられてくるのでしょうね。自遊空間さんがリモート接客をいち早く取り入れられたのにはどういった背景があったのでしょうか?
– 望月
自遊空間さんはテクノロジーで店舗をより良くしていこうと、早くから店舗のセルフ化を拡大されていました。ところが、セルフ化を進め、受付が無人になると、来店したお客さまがセルフ機器の操作方法が分からないために帰ってしまうことが少なくなかったといいます。店舗の省人・無人化を実現しながら、いかに顧客満足度を維持・向上し、売上を伸ばすことができるかという課題があり、「RURA」の導入を決めて頂きました。
– 柳澤
一度「無人化」に取り組まれた上での課題だからこそ、「リモート」という新しい考え方を受け入れられたのですね。確かに、私たちも一度完全自動化にトライされた上で、壁に当たられている事業者様とお話を進めさせて頂いています。
– 望月
省人化・無人化でサービスや最終成果物の質が悪くなることをよしとしないのはどの業種でも同じでしょうね。お客さまを置いてきぼりにしてしまうと満足度が下がり、売上も下がり会社としては良くない方向に行ってしまいます。その点、自遊空間さんでは各店舗の優秀なスタッフの方々が複数店舗の接客を担当されることで、高品質な接客体験を地理的環境にとらわれることなく提供できるようになり、「リモート化」ならではの価値を感じて頂いています。
– 柳澤
製造業でロボット導入というと、省人化やコストダウンが前提となることが多いため、人がゼロにならない「リモート化」に対する受容度はなかなか厳しいのですが、例えば希少なスキルを持つ方が複数ラインを担当できることで品質の向上が見込めるなど、私たちもやはりリモートならではの価値があると考えています。
– 望月
「RURA」をやっていて思うのは、「遠隔だとこれができない」といった“できない側の視点”で評価されがちということです。マイナスな部分を挙げればいくらでもあります。でも、「遠隔ならこういうことができる」という、プラス価値の視点から考えるのがポイントなのだと思います。
働き手が抱える課題とリモート業務
– 望月
私たちは「店舗と店舗に来られるお客さんの体験」に主に向き合っていますが、リモートロボティクスさんはリモートワーカーさんにもしっかり向き合おうとされているんですよね?
– 柳澤
はい、会社のPurposeとして「すべての人々が社会参加できるリモート社会の実現を目指し、人とロボットの新しい働き方を提案する」を掲げていて、Purpose オリエンテッドな合弁会社として設立しています。
働きたい意思はあるけれど、就職活動もできていない“未活用労働力”として253万人いらっしゃること、ご存じですか? 私も30代前半で、周りを見ても、ライフステージ的に居住地や家庭の事情で働きづらさを感じている方がいますし、親世代もまたそうだろうなと。一方で柔軟な働き方の一つであるリモートワークは、このコロナ禍で広がったとはいえ、”まだまだ感”はありますよね。
– 望月