2024年11月20日
外観検査をAIだけに頼らない!“あえて”リモート目視も取り入れる/リモートロボティクス×TDSE

「外観検査を人工知能(AI)だけに任せても100%正しい結果を出せるわけではない」と、良品AI外観検査システムTDSE Eye(アイ)を設計、開発するTDSEの柴田敦新規プロダクト開発グループ長は明かす。精度を高めるためのAI学習には時間がかかるため、あえて目視検査も取り入れることを提案する。そこで目を付けたのがリモートロボティクス(東京都港区、田中宏和社長)が提供する遠隔ロボット操作サービス「Remolink(リモリンク)」だ。AIが判断に困るもののみを目視で検査するため、精度を担保しながら検査作業の大半を自動化できるようになる。
幅広い分野で活用可能
TDSEはAIを活用した製品の開発や、ビッグデータとAIを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)のコンサルティングやソリューションの提供を主事業とする。2013年にITコンサルティング企業のテクノスジャパンの子会社として設立した。
TDSE Eyeは外観の異常検知に特化した最先端のシステム。創業以来多くの企業へAIソリューションを提供することで培ったノウハウを集めて開発し、2022年11月に提供を開始した。電子部品や自動車部品、食品や飲料の異物混入など目視で異常を確認できるもの全てが検査対象に入るため、活用分野は非常に幅広い。立体形状の製品でも、カメラの設置箇所の工夫や産業用ロボットなどを使って検査対象の姿勢を変えられれば問題なく検査できる。
サブスクリプション形式(定額制)で、月額10万円から利用できるのも特徴。「顧客の要望に応じてAI外観検査システムを1から構築した場合、イニシャルコストが1000万円から2000万円ほどかかる。しかし、それをパッケージ化したことで、安価な導入を可能にした。AIは日々進化しているため、最新のアルゴリズム(計算方法)を使えるようサブスクリプション形式にし、最新の技術を常に利用できるようにした」と柴田グループ長は語る。
「パッケージ化することで、イニシャルコストを大きく低減できた」と語るTDSEの柴田敦新規プロダクト開発グループ長
AIの真のメリットを知ってほしい
外観検査の種類は、目視検査とルールベース検査、教師あり学習のAIによる検査、教師なし学習(良品学習)のAIによる検査の4種類に大きく分けられる。
目視検査はさまざまな異常を人の目で一度に見つけられるのがメリットだが、判断基準が人それぞれ異なり、作業効率も作業者の数と経験に依存してしまう。製造業では人手不足が大きな課題となっており、人手を確保しにくい問題もある。
ルールベース検査は人がルールを設定し、それに従って判定するため、あらかじめ設定したルール以外の異常を検知することができない。
教師あり学習のAIによる検査は精度の高さは優れるものの、AIに学習させるために大量の異常データを集める手間がかかる。それに加えて学習していない異常は異常と判断できないため、さまざまな異常データを収集しなければならない。精度の向上に時間を要するため、構想から実装まで時間がかかることがボトルネックだった。
一方、良品学習によるAI検査は良品の画像データを基準とし、ワーク(検査対象品)の画像データとの差異から異常を見つけるため、異常データの収集は必要としない。メリットはそれだけでなく、これまで発生したことがない場所の傷や、めったに発生しない異常といったイレギュラーな事象への対応力が高くなる。
TDSE Eyeはこの良品学習AIを採用したため、良品の画像データをAIに学ばせるだけで異常検知ができるようになる。必要な画像データの枚数は良品の判断基準に合わせて用意すれば良く、明確に良品の基準を定めたものならばたった数枚で済んでしまう。
そのため、TDSE Eyeは教師あり学習のAI外観検査システムよりも構想から実装までにかかる時間を短縮でき、すぐに実戦投入できる。「TDSE Eyeは実装スピードの速さが真のメリットであることを知ってもらいたい」と柴田グループ長は強調する。
良品学習AIによる検査は性能バランスの高さに優れる
精度を追いすぎず、あえて目視も
展示会でTDSE Eyeを出品した際に、AIに100%完ぺきな精度を求め、外観検査作業の完全な無人化の実現を求める来場者もいたという。
AIの精度を上げるためには、正常、異常のしきい値近辺にあるワークを人が判断し、再学習をし続ける必要があるが、この微妙な判断は人の目視検査でもばらつきがある。判断基準がばらついたままではAIも判断に迷いが出てしまう。特に導入時は、AIでも良品か異常かを明確に判断できないケースもあり、必ずしも全ての製品を完璧に検査できるわけではない。これはTDSE Eyeに限った話でなく、AI外観検査システムそのものの課題として挙げられる。
完全自動化を目指すためには、AIが正常と異常を正確に判断できるようにする必要があるが、現実には難しいのが実情である。しきい値を下げて異常の見逃しをゼロにした場合、良品を異常と判断する「巻き込み」も起こってしまう。その許容範囲を狭める調整に時間をかけすぎている。
良品AIを市場に投入した背景は、教師あり学習での課題だった導入まで時間がかかるとのハードルを下げることで、目視工程を高度化・効率化するためだった。「現状は本来の目的である検査の効率化でなく、100%の精度を追い求める方向へいってしまい、1年も2年も検証として改善を続けているのが実情」と柴田グループ長。「AIで明らかな異常と明らかな正常を判断し、判断をつけにくい微妙なものはあえて目視を残すことを推奨する」と話す。
とはいえ、作業者をどのように配置し、作業をしてもらうかを工夫しなければ、結局は通常の目視検査と同様の工程になってしまい、AI外観検査システムのメリットが失われてしまう。
その課題に対する効果的な手段として目を付けたのが、リモートロボティクスのクラウドサービス「Remolink」だ。遠隔地からロボットに動作の開始や停止などの指示を送ることで、リモートでロボットの遠隔操作ができるサービスで、昨年7月に提供を開始した。
作業の全てをロボットに置き換えられない場合でも、ロボットで代替できる部分が少しでもあれば必要に応じてロボットと人との役割分担ができ、人にかかる負担を軽減できる。
ロボットがワーク画像を撮影し、良品AI「TDSE Eye」で外観検査を行う
場所を選ばず検査できる
作業の流れとして、まずロボットが検査前のワークをカメラの前にハンドリングして外観をカメラで撮影後、TDSE Eyeが撮影画像を基に検査する。通常は良品を示す正常か、不良品を示す異常のどちらかに判定するが、あえて「目視」というステータスも準備する。
正常、異常に加えて「目視」というステータスを設ける
TDSE Eyeによって目視判定となると、リモート環境での検査担当者のRemolinkアプリ画面に通知が届く。アプリ画面上にはAIのヒートマップや現場の俯瞰(ふかん)画像、ワーク画像が表示されており、ロボットにワークを動かす指示もできる。人が現場で再検査をする時のように、リモート環境でもワークの角度を変えて見ることで凹凸や傷の有無を判断することができる。
Remolinkの操作画面
基本的な検査作業はTDSE Eyeとロボットが自動で進めるため、作業者はこの一連の検査作業にずっと立ち合い続ける必要がなくなる。判断困難な製品があった場合のみ、遠隔でその製品の画像を確認し、検査結果をロボットに送るだけで済む。作業者は場所にとらわれることなく、他の作業と並行しながら進められたり、1人の作業者が複数工程、複数現場の検査を担当できるため、作業効率の向上に大きく寄与する。
「目視検査と比べて人の目で検査する量が減り、作業者にかかる負担も大幅に減らせる。目視検査よりも検査の担当者を少なくできるため、検査基準にムラが出にくくなる」と柴田グループ長は語る。
Remolinkを使えば作業者が常に工場にいる必要がなくなり、例えば事務棟で他の作業をしながら検査作業ができるようになる。また、育児や介護など在宅でなければ仕事をするのが難しい人でも自宅から作業できるため、インターネット環境さえ整っていれば、全国各地どこからでも働けるようになる。
作業者は目視検査が必要な時だけ対応すればよい
人件費を固定費→変動費へ
Remolinkを活用した検査システムは目視検査よりも作業人数を減らせるのが大きなメリットだが、完全な無人化でない以上、人手は必要となる。製造業は人手不足に嘆く企業が多く、採用活動も決して簡単ではない。
この解決策として、リモートロボティクスは、ロボットの遠隔操作を担当するリモートワーカーと働き手を求める企業のマッチングサービスを提案する。
働き手を求める企業は作業をアウトソーシングすることで月ごとの生産量の変動に合わせた業務の委託が可能となる。リモートワークだからこそ、複数現場や他社とも人材をシェアできる。人材の教育や管理はリモートロボティクスの人材パートナー企業が行うため、業務品質や情報管理の観点でも安心して使える。
リモートワーク人材のアウトソーシングによりで人件費の変動費化を実現
AIのさらなる精度向上も
運用しながら目視検査で良品と判断した製品の画像データを保存し、そのデータをAIに学ばせることで、AIの検査精度を高められる。今後、TDSE Eyeにはそのような再学習の機能も追加予定だ。
「AIに学ばせるデータは量よりも質が大事なため、ただやみくもに学ばせても必ずしも精度の向上につながるとは限らない」と柴田グループ長。「良質なデータを学ばせてAIの精度を高められれば、人の作業量をさらに減らすことができる」と力強く語る。
検査データを学習させることで検査精度を高められる
無料ウェビナー「AIベンダーがあえて『人によるリモート目視』をお勧めするワケ」
リモートロボティクスとTDSEの協業について、11月28日(木)に開催する無料ウェビナー「AIベンダーがあえて『人によるリモート目視』をお勧めするワケ」で詳しく紹介する。これから外観検査にAIを活用しようと考える人や、外観検査AIを導入済みだが、高い精度を出せず困っているユーザーに向けて、高い精度を出せる外観検査AIの活用法を紹介する。ウェビナーの詳細や申し込みはウェブサイトから。
無料ウェビナーでAI外観検査システムと人によるリモート目視を組み合わせるメリットを解説する
本記事はニュースダイジェスト社が運営するウェブマガジンRobot Digestからの転載です。