2023年11月27日

人の知見を生かす!“リモート化”で外観検査の自動化に付加価値を/リモートロボティクス×イズミビジョンラボ

 今回はイズミビジョンラボ(愛知県安城市、都築竜郎代表)との協業の事例を基に、外観検査のリモート化のメリットに迫る。

代表の都築竜郎さんにお話を伺いました。

「撮像条件」が重要な要素に

 イズミビジョンラボは外観検査装置や画像処理ソフトウエアの開発や製作に加え、協働ロボットを中心とした自動化システムの開発や製作なども手掛ける。大手自動車部品メーカーで生産技術部門のエンジニアとして20年近く勤務していた都築代表が独立し、2021年に立ち上げた。

イズミビジョンラボは外観検査装置の開発などを得意とする

 製造現場では一般的に、作業者が目視でワーク(被加工物)の外観検査をするのが主流だ。しかし、近年の深刻な人手不足を背景に、外観検査の自動化ニーズは高まりつつある。同社は自動車業界で培ったノウハウを生かした外観検査装置の仕様策定や画像処理のアルゴリズム(問題解決の手順)開発を得意とし、自動車を含む製造業各社のニーズに応えている。
 都築代表は「画像処理の精度はワーク品質のばらつきに左右されるため、ワークをどう撮影するかという『撮像条件』が重要な要素になる。私は前職の自動車部品メーカーで生産工程を一通り経験しており、どういう風にワークが作られ、それが画像処理にどう影響するかを想像できる。そのため、ワークのばらつきを最小限に抑えられる撮像条件を提案できるのが大きな強み」と話す。

主要なアプリケーションの一つ

 最近は協働ロボットを駆使したフレキシブルな外観検査の自動化システムの開発にも力を入れている。システムの付加価値を高めるため、リモートロボティクスの「Remolink(リモリンク)」も積極的に活用している。
 Remolinkはロボットの遠隔操作が可能なクラウドサービスで、「リモートによる、人とロボットの役割分担」という新しいリモートワークのあり方を提案するリモートロボティクスが今年7月から提供を開始した。作業内容を完全にロボットに置き換えるのではなく、必要に応じて人が遠隔からロボットを操作する仕組みを構築できるのが特徴で、作業内容のばらつきの大きさから今まで自動化が進んでこなかった工程にもロボットが導入しやすくなる。
 イズミビジョンラボが得意とする外観検査も、Remolinkの主要なアプリケーション(応用的な使い方)の一つだ。人の知見とロボットを組み合わせることで、従来は現場ありきだった外観検査のリモート化を実現できる。

同社は今年に入ってからRemolinkを本格的に活用しており、都築代表は「Remolinkを使えば、遠隔アプリが自分でも簡単に作れるし、(ノーコードツールなので)エンジニアだけでそれなりに綺麗なデザインや遠隔操作するうえでは使い勝手の良いユーザーインターフェースが簡単に作れるのは有り難い。」と評価する。

左:Remolinkでロボットを遠隔操作できる
右:使いやすいユーザーインターフェースが特徴

再研磨後の摩耗残りを自動検査

 イズミビジョンラボがRemolinkの活用も含めて開発を進めるアプリケーションの一つが、ホブカッターの外観検査を自動化する協働ロボットシステムだ。ホブカッターとは歯車の切削加工に使われる切削工具で、円筒の外周に多数の切れ刃が付いている。切れ刃が摩耗したら、切れ味を回復させるために研削砥石(といし)で研磨する。この作業を「再研磨」と呼び、現在開発中の協働ロボットシステムはその再研磨後の切れ刃の摩耗残りを自動検査するものだ。

イズミビジョンラボが開発中の協働ロボットシステム

 都築代表は「一つのホブカッターに最大で1000もの切れ刃が付いており、従来は作業者が全ての切れ刃を目視検査していた。それだけに自動化の需要も大きく、前職では直交ロボットと回転ステージによる専用の検査装置を開発した実績がある。だが、先行きの不透明さや不確実さを踏まえると、汎用性の高い協働ロボットを活用した検査装置にも一定のニーズがあると考え、開発に着手した」と説明する。

左:ホブカッターの形状
右:都築竜郎代表が独自開発したアルゴリズムに沿って良否を判別

自動検査と手動検査を兼用

 作業者がホブカッターを専用の固定台にセットした後、ビジョンセンサーを備えた協働ロボットがホブカッターの外周を撮影し、都築代表が独自開発した画像処理のアルゴリズムに基づいて再研磨後の切れ刃の良否を判別するのがシステムの主な作業フローだ。
 通常時はあらかじめ決められたルールに沿ってシステム側がOKやNGを自動判別すればいいが、中には判別に悩むケースや詳しく調べなければならないケースも出てくるだろう。これに対し、同社はRemolinkを介してシステムを“自動”から“手動”に切り替え、知見のある熟練作業者がロボットを遠隔操作しながら良否を判別する仕組みを提案する。「前職時代に利用していた専用の検査装置でも、判別に迷った際は熟練作業者が別日にマイクロスコープを使って細かくチェックしていた。こうした作業が遠隔からでも可能になれば自動検査と手動検査を一つのシステムで兼用できるようになり、生産性や付加価値を高められる」と都築代表は強調する。

協働ロボットがホブカッターを撮影する様子

 同社は来年1月をめどに協働ロボットシステムを完成させる計画だ。今後、Remolinkの活用事例も含む技術サンプルとして顧客にPRしていきたいと考えている。

協働ロボットが一つのきっかけ

 イズミビジョンラボはなぜロボットのリモート化に目を付けたのか?
 この問いに対し、都築代表は「協働ロボットの登場が一つのきっかけだった」と答える。「通常の産業用ロボットや専用装置でも遠隔操作は可能だが、実機を直接見ないと状況判断ができないケースが多く、結局は人が現地にいた方が安全に作業できる。一方、協働ロボットは安全性が高いため遠隔操作とも相性が良く、うまく組み合わせれば生産性を高められると考え、遠隔操作の可能性を探り始めた」とも語る。

 そもそも、同社とリモートロボティクスが初めて出会ったのは、昨年3月に東京都内で開催された「2022国際ロボット展(iREX2022)」の会場だった。「最初はリモートロボティクスがどんな会社なのか全く分からなかった。だが、ソニーグループと川崎重工業の合弁会社なだけあって『何か面白いことをしそうだ』との期待感はあった」と都築代表は当時の印象を明かす。

iREX2022でリモートロボティクスが展示したピッキング作業のデモ

遠隔操作からシステム全体へ

 大きな転機が訪れたのは、iREX2022から約1年がたった今年2月。名古屋市千種区で開催された産業見本市「第12回次世代ものづくり基盤技術産業展 TECH Biz EXPO (テックビズエキスポ)2023」にリモートロボティクスが出展しており、都築代表は企業理念やRemolinkの概要、遠隔操作の可能性などについて担当のエンジニアとブースで深く話し合ったという。「後日、リモートロボティクスから『Remolinkをお試しで使ってみませんか』との打診があった。クラウドのプラットフォームには以前から興味があったため、その依頼を引き受けた」と振り返る。

イズミビジョンラボの都築竜郎代表

 それ以降、イズミビジョンラボはRemolinkのユーザーとして、ベータ版から現在に至るまでバージョンアップをするたびにフィードバックを行うようになった。
 「リモートロボティクスは少数精鋭で事業を展開しており、一人一人のエンジニアの専門知識も豊富なため、お互いに深く議論できる。Remolinkは遠隔操作に特化したプラットフォームだが、将来的にはロボットシステム全体を制御できるようなプラットフォームへと幅を広げてほしい。そうすればより多くの企業がロボット化の恩恵を享受でき、社会全体にとってもプラスになるはず」と都築代表は話す。

 リモートロボティクスはくしくも、イズミビジョンラボと同じ2021年に設立された。創業間もない若き2社が生み出すソリューションに、今後も大きな注目が集まりそうだ。

 なお、リモートロボティクスは間もなく開幕する2023国際ロボット展(iREX2023)に出展し、ロボットのリモート化を実現する数々のソリューションを提案する。出展ブースの位置は東京ビッグサイトの東ホール【E2-06】。会期3日目の12月1日10時30分からは「『リモート』がもたらす人とロボットの新しい働き方」と題した出展者セミナーも開催する。セミナー聴講の申し込みはiREX2023のウェブサイトから。

本記事はニュースダイジェスト社が運営するウェブマガジンRobot Digestからの転載です。




お問い合わせはこちらから