2023年09月06日

デモ展示でロボット“リモート化”の活用方法を問う/リモートロボティクス×SSI

台湾のロボットメーカー、テックマンロボットの国内代理店を務めるSSI株式会社(静岡県浜松市)。自動化に向けたロボット活用の提案を行っている同社が、今”リモート”に取り組む理由とは。

代表取締役社長の小笠原誠さん、常務執行役員の竹内千洋さん、CTOの山本昌治さんにお話を伺いました。

より多様な働き方を提案

リモートとはいえ人手を必要とするロボットの遠隔操作システムを、なぜSSIは提案するのか――。「これまで自動化を諦めていた現場でも、省人化を実現できるからだ」と小笠原社長は語る。

 同社は台湾のロボットメーカー、テックマンロボットの国内代理店を務めており、現場の人手不足を解決するべく協働ロボットを提案している。

 通常はロボットで作業を自動化する場合、事前にプログラミングした一定の動きを繰り返させることが多い。そのため生産する品種の切り替えや突発的な停止などが発生した際、担当者が現場に行って対応しなければならないケースもある。人手不足を解決するための自動化でありながら、現場に人が必要という課題があった。

 小笠原社長は「人手不足が深刻化し、現場に配置できる人数も限られてくる。また大規模な工場などで工程の自動化は進んできているが、コストの問題からロボットの導入に至らない現場も多い」と話す。



 そこで目を付けたのが、リモートロボティクスの提供するサービスだった。リモートロボティクスはこれまでにないロボットの活用方法を提案する。それは遠隔でロボットに指示を出し、動作の開始や停止などを制御するやり方だ。

 「作業工程を全てロボット化するのではなく、大部分を自動化して残りを人が判断する。現場の完全自動化は難しいと悩んでいた企業にも、新たな選択肢を提示できる」と小笠原社長。

 

 リモートロボティクスの事業は、ロボットを介したリモート作業を可能にするプラットフォーム(基盤)サービス。ロボットの遠隔操作を実現するクラウドサービス「Remolink」と、リモートロボットシステム開発のスモールスタートを可能にする「Remolink Builder」を提供している。

 ロボットに遠隔で指示を送るシステムを構築できるため、自宅からでもロボットを動かせる。そのため現場から離れた距離にいる人も作業を管理でき、例えば育児や介護などで勤務時間が限られる人も製造業に働き手として参加しやすくなる。
 これまで以上にさまざまな人材を採用できるようになり、人手不足の解消につながる。

 また小笠原社長は「生産工程の完全な自動化などと比べて費用を抑えられるケースもあり、その場合は従来に比べてロボット導入のハードルを下げられる」利点もあると言う。


 SSIがRemolink Builderを使って実現したロボットの遠隔操作システムは、幕張メッセで開催されるスマート工場EXPOで直接目にできる。当日披露するデモシステムについて、SSIの竹内千洋常務執行役員は「これまで以上に多様な働き方を選べるようになる。人とロボットが互いに補い合う画期的なシステム」と説明する。



ロボットへの遠隔操作は必要な時だけ

 デモシステムではテックマンロボットの「TM AI COBOT(コボット)」を使う。最大の特徴はビジョンシステムやAI機能を標準搭載している点で、ピッキングや外観検査などの自動化に向く。
 ロボットアーム内蔵のカメラで対象物を撮像し、AIがその画像を自動で認識する。そのためピッキング作業のティーチング(動作を覚えさせること)などを簡単にできる。

 このようにAIがあれば人の判断は不要に思えるが、そうではないのだろうか。小笠原社長は「作業の切り替えなど、AIで判断し切れないこともある」と言う。

 そこで開発したのが、リモートロボティクスが提供するRemolink Builderを活用した、今回の遠隔操作システムだ。現場で稼働するTM AI COBOT、現場作業者用の遠隔アプリ、リモート環境で作業する管理者用の遠隔アプリで構成される。複数種類のSDカードのうち1種類のSDカードは事前にTM AI COBOTに学習させ、供給箱から自動で判別・ピッキングしパレットに払い出す動作をプログラミングした。

 作業範囲から該当するSDカードがなくなった時やパレットが満載になった場合には、現場作業者にアプリ内で通知をして、ワークの供給やパレット交換を促す。また事前に学習していないSDカードを認識した場合には、リモート環境にいる管理者にアプリ内で通知をして、退避用のパレットに払い出すか、廃棄するかの判断を仰ぐ。その際、現場作業者向けのアプリには「管理者の判断待ち」というステータスを表示する。

 ロボットの自動動作中は、SDカードをピッキングしている、パレットに置いているなどの稼働状況を、現場作業者・リモート環境にいる管理者両方の遠隔アプリに表示する。加えて、払い出したSDカードの枚数も表示するため、作業進捗量を常に把握できる。


 竹内常務は「作業者は通知を受け取った際に操作をすれば良く、常にロボットを監視する必要がない。生産する種類の切り替えなども容易で、多品種少量生産の現場でも効果的な自動化を実現する」と語る。



リモート化やアプリ作成もスムーズに

 遠隔操作システムの構築は通常、それに適したクラウド環境の構築や遠隔操作用アプリの開発などが必要で難しい。しかしRemolink Builderを使えば、システム完成までにかかるコストや手間を削減できる。

 Remolink Builderは、ロボットの遠隔操作システムを構築するのに必要なツール群の「Remolink Tools(ツールズ)」と開発向けのサポートサービスで構成される。Remolink Toolsは以下の3つを含む。
 ・ロボット制御アプリに組み込むソフトウエア開発キット「Remolink SDK
 ・情報中継Windowsアプリケーション「Remolinkコントローラー
 ・遠隔アプリ作成ノーコードツール「Remolinkアプリビルダー

 まずRemolink SDKを、ロボットシステムを制御するパソコンに組み込む。その後Remolinkコントローラーで、ロボットシステムとRemolinkのサーバーを接続する。続いてRemolinkアプリビルダーで、ユーザー自身が遠隔操作用アプリを作成。そうすると、アプリを通じてロボットに指示を送れるようになる。
 パソコンで制御していれば、既に稼働しているロボットでも実装できるため、さまざまな現場で導入しやすい。

 Remolinkアプリビルダーは、Webアプリ制作の知識がなくても簡単にアプリを作れるノーコードツールという点が大きなメリット。操作画面のレイアウトをあらかじめ複数パターン用意しており、用途に適した画面構成を選べるようにした。ユーザーはレイアウトを決めたら、カメラ映像やロボットに指示を送るボタンなどを配置する。ボタンを押すとどのような指示を送るかは、フローチャートで設定できる。一通りできたら動作テストを経て、アプリ作成が完了する。


 デモシステムを構築したSSIの山本昌治最高技術責任者(CTO)は「直感的な操作でアプリを作成でき、とても簡単。管理者用と作業者用で操作権限の異なる画面を設定することもでき、現場に最適なアプリがスムーズに作れる。」と話す。

 アプリを通してロボットに動作開始などの指示を送れるが、さらに柔軟な対処を実現するのが「ミッション機能」だ。


 例えばSSIが構築したデモシステムでは、ピッキング作業中の範囲から対象物がなくなるとロボットは自動で停止する。対象物をさらに投入しても、管理者が新たに指示をしなければロボットが止まったままで、生産がストップしてしまう。そこでミッション機能で、リモート作業者に通知してそれを防ぐ。ロボットが停止している状況を伝え、次の作業の指示を出すように促す。

 「作業の切り替え時だけでなく、エラーが発生した際に通知を送るように設定することもできる。将来的には、複数のロボットを作業者1人で管理するシステムも目指したい」と竹内常務。

現場を確認してから動作指示

 Remolink Builderはロボットのメーカーを問わず遠隔で指示を出せるが、テックマンロボットの協働ロボット「TM Robot(ロボット)」と親和性が高い。ロボットを遠隔で操作する際、現場の状況が見えていないと干渉(周囲との接触)のリスクなどを確認できない。TM Robotはビジョンセンサー用のカメラを内蔵しているため、そのカメラで取得した映像をアプリ画面に表示でき、別で監視用のカメラを用意せずに済む。ロボットを動かす前に現場の状況を確認でき、作業者は安心して指示を送れる。


  竹内常務は「以前からロボットの遠隔操作に関する相談を受けることがあったが、安全性などの観点から難しかった。極端な例で言えば、ロボットが壁に接している状態で待機しているかもしれない。その状況を確認せずに動作の指示は出せない。Remolink Builderはカメラ映像で現場を見られるようにしているため、操作前に状況を確認できリスクヘッジになる」と語る。
 

協働ロボットでより一層の自動化を

 労働人口の減少に対して、人手作業の自動化に取り組む企業は多い。SSIはAI技術で生産現場の省力化を実現するべくテックマンロボットの協働ロボットを提案しているが、作業のどこまでを自動化するかが課題という。

 AI技術は発達しているが、現場や作業内容によって人の判断が必要な場面もある。「また仮に完全な自動化を実現できるとしても、時間やコストが非常にかかる」と小笠原社長。そこでRemolinkやRemolink Builderを使えば、人とAI両方を生かせるシステムを、より早くコストを抑えて構築できるというわけだ。

 小笠原社長は「人手不足に悩む現場に、ロボットが身近になっていることを示したい。スマート工場EXPOの出展を通して、これまでロボットを使ったことがない企業や、さらなる省人化を実現したい現場にアピールできれば」と意気込む。



スマート工場EXPOは9月13日~15日、千葉市美浜区の幕張メッセで開催される。SSIの出展ブースの位置は3ホール【11-38】。また最終日の15時から、リモートロボティクスの田中社長が「『リモート』がもたらす人とロボットの新しい働き方」をテーマに特別講演をする。講演への参加はウェブサイトから申し込み可能。人手不足に悩む現場に向け、新しいロボット活用の実現に取り組む両社の提案に注目が集まる。


本記事はニュースダイジェスト社が運営するウェブマガジンRobot Digestからの転載です。